DCL vs AQS

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あらまし

以下の2陣営による,規格競争の振り返りです.ときに,1980年代半ば.

もくじ


比較表

後発のAQSのほうが,圧倒的に機能が豊富でした.

 DCLAQS
フルスペルDigital Channel LinkAmateur Quinmatic System
参加メーカートリオ・日本圧電気八重洲・マランツ・アイコム
期間発売1984~1986年1985~1987年
販売~1993年~1998年
ローンチ6機種同時(CQ誌1984年8月号)3社同時(CQ誌1985年11月号)
対応機種数内蔵88
オプション3 
機能自動空きチャンネル探し・自動周波数変更
“チャンネルアクセス”
コールサイン伝送
コールサインスケルチ
CQコード○(「CQ CQ CQ」)
コードスケルチ○(数字5桁)○(数字5桁)
データメッセージ伝送
コードメモリー
コールサイン・コードを記憶
カナ対応
空きチャンネル探索範囲144.52~145.78MHz (除 145.00,145.50MHz)
432.26~433.98MHz (除 433.00MHz), 438.02~438.98MHz
判定時間1.5秒 
コールサイン字数68
字の入力方式10進ASCII 2桁10進ASCII 3桁
10進JIS 3桁(177:ア ~ 223:半濁点)
伝送タイミング(1) 接続動作時に自律的に
(2) PTTを握る・離すの,両瞬間
所要時間約0.2秒約0.25秒(291bit÷1200bps)
信号型式符号型式NRZ 
変調方式MSK方式 
マーク周波数・偏差1200Hz・200ppm 
スペース周波数・偏差1800Hz・200ppm 
符号伝送速度・偏差1200bps・200ppm1200bps
搬送波変調方式FM (F2)FM (F2)
周波数偏移2.5kHz以上5kHz以下 
誤り訂正ハーゲルバーガー方式 
フレーム長約240bit291bit
表示器オプションCD-10(6字1行)FMP-1(14字3行)
MP-1(同)
CDS5000
CDS6000
解説記事CQ誌1984年8月号pp.303-304,362(編集部著)RL誌1986年5月号pp.70-71(八重洲著)
発展 (1) CAT-AQSデータ通信システム「RADIO VAN」
(2) AQS-TNCデータ通信システム「RADIO VAN ver 3.1」~

制御信号の構成

少なからず影響を受けた「パーソナル無線」のものも併記します.

DCLはデータ長が示されていません(見つかりません).しかし「1200bpsで約0.2秒」ですから,同期信号込みで「240bit前後」でしょう.

「パーソナル無線」は,S61年の「オプションコード」の追加でデータ長が「188bit」に伸びているはずですが,告示上は明示がありません(別図第2号の改正がない).


対応機種と販売期間

下表にまとめます.


対応機種と価格・保証認定番号

下表にまとめます.

機種価格〔円〕保証認定番号
 QRO版 QRO版 QRO版
DCL
TS-711D148,000158,000T89T89MA031L
TS-811D159,800175,000T90T90MA032L
TR-751D89,80094,800T98T99MA033L
TR-851D119,800128,000T103T104MA034L
TW-4100S89,00099,800T100T105M
TM-211D69,80074,800T82T82M
TM-411D74,80079,800T83T83M
TR-260047,800T84
TR-360052,800T85
PCS-401067,800AD11
PCS-431072,800AD9
AQS
FT-736M228,000240,000Y115Y116MA038L
FT-736XM287,000299,800
FT-3700H99,800109,800Y92Y93M
FT-3800H67,00079,800Y94Y95M
FT-3900H69,80075,800Y96Y97M
C5000D99,800109,800S42S43M
C6000S139,800144,800S45S46M
IC-2600D89,80099,800I81I-82M
IC-26D64,80069,800I77I-78M

顛末

トリオによる“座組”(ざぐみ)のネゴが失敗でした...おそらく.

RL誌 1987年8月号

『これだけは許せないRL、業界へ怒る!』の一節,『ユーザー無視のAQS・DCL戦争』によります.
(記憶には焼き付いていたのですが,出所も掴めました.1987年8月pp.64-65です.バックナンバーDVD-ROMへの投資がすこし回収できました.)

RL誌の記事――1987年8月号――では,「おそらくこれ以上は、搭載された機種は出ないと思います」と予見していました.しかしその後も,FT-736がAQSに対応して発売されてきました.そしてそれが,最後の対応機種となりました.

時は流れて今の時代,商標検索がオンラインでできます....しかし「AQS」は見つかりません.

月間FBニュース 2014年12月号

『アイコム50年史』の『第3回 マイコン時代』の『AQS (Amateur Quinmatic System)』からです.RL誌と重複する内容は割愛します.
https://www.fbnews.jp/201412/rensai/icom50_03_02.html

その後、両者で共通に使えるシステムの話し合いを行いましたが、このシステム自体がアマチュア無線の主旨にそぐわないとのことで市場は拡大して行きませんでした。

記事上にみる懸念

CQ誌(DCL)

なお,ビデオのVHS vs βに見られるように,新指向の方式の導入は,常にユーザーにとっては混乱を招く危険をはらんでいると申せましょう.少なくともアマチュア無線の世界だけはそうした混乱を避けて,順調な技術進歩が図られるよう,すべてのアマチュア無線機器メーカー関係者のご努力に期待したいところです.例えば,周波数制御用信号やディジタル・スケルチなどの制御用信号の統一化などです.
〔CQ編集部,1984年8月号,p.303〕

→...図星でした.

CQ誌(DCL)

〔JA1ASS・JG1QGF,1984年10月号,p.223〕

RL誌(DCL)

あまりに時代の最先端を行過ぎていたため、ほかの各メーカーと規格が統一できないままで、結局“尻すぼみ”になってしまったようです。まあ、これはけっして技術力がなかったのではなく、政治力の領域だと思うのですが…。
〔野村秀樹,1987年6月号,p.157〕

RL誌(DCL・AQS)

最近、こうしたDCLやAQSのセットが安売りされていますが、これを購入して、いい気になってメインチャンネルなどでピロピロと音をたてていると、「ウルサイ、その音やめろ!」と言われます。購入した人はDCLやAQSのスイッチをOFFにして使いましょう。
〔RL編集部,1987年8月号,p.65〕

DCL

6機種同時発売

CQ誌1984年8月号で現われました.下表にまとめます.同時に,編集部によるDCLの解説記事も掲載されました.

ジャンル144MHz430MHz
 QRO版 QRO版
固定TS-711TS-711DTS-811TS-811D
モービルTM-211TM-211DTM-411TM-411D
ハンディTR-2600 TR-3600 

その後は,
ハンディ機が2年ほどで次のモデル(TH-205,405;TH-215,415)に,
モービル機が3年ほどで次のモデル(TM-255,455)に,
固定機が4年ほどで次のモデル(TS-790)に,
それぞれ切り替わりました.いずれもDCL非対応です.

DCL対応第二陣の3機種――次々節――も,DCLは「オプション」扱いになりました.よって厳しい見立てでは,DCLはこのときだけの“一発芸”に終始しました.

TS-711,811

TM-211,411

TR-2600,3600

日本圧電気がDCL陣営に参加

日本圧電気がDCL対応機を発売してきました.PCS-4310(430MHz),PCS-4010(144MHz)の順で投入されました.
しかし1年半ほどの短命に終わり,後継のPCS-5000番台へと切り替わりました.

トリオのDCL製品第二陣――DCLはオプション対応に

ケンウッドへの改名――1986年6月――前にTR-751が,改名後にTR-851,TW-4100がそれぞれ発売されました.ただしこのときからDCL対応はオプションとなりました.DCL用モデムユニット『MU-1』5,500円を購入する必要がありました.表現も“DCL対応機”となりました.

TR-751

“コンパクトオールモード機”という位置づけで,144MHz版です.

TR-851

おなじく430MHz版です.TR-751比で9か月遅れの発売でした.

TW-4100

144/430MHz 2バンド対応のFMモービル機です.QRO版のサフィックスは――「D」(25Wを暗示)ではなく――「S」です(144MHz 45W・430MHz 35W).

DCL用オプション

コールサインディスプレイ『CD-10』19,800円がありました(ACアダプターとして2,500円も).これがないと相手方のコールサインの「表示」はできませんでした.


AQS

最先行の3機種

1985年のアマチュア無線フェスティバルで,FT-3700,C5000,IC-26が参考出展されました. その報告が載ったCQ誌10月号で,本頁冒頭右側の「3社連名の予告広告」が現れました. つづく11月号で,その最先行3機種が具体的に広告されています.3社同時発売です.

FT-3700

144/430MHzのFMモービル機です.本体に周波数変更のロータリースイッチがありません(まるでICF-2001のよう)...「あったほうがいい」派(RL誌レビュー),「なくてもいい」派(CQ誌レビュー)と,意見は別れました.テンキーとUP/DOWNキーによってQSYします.代わりに,マイクにダイヤルが付いています.QRO版は「FT-3700H」で,25Wでした.

C5000

144/430MHzのFMモービル機です.QRO版はC5000Dで,25Wでした.

IC-26

144MHzモノバンドのFMモービル機です.「FT-3700と作りが似ている」のが話題になりました〔RL誌1986年5月号pp.155-156,改造マニュアル PART 4 p.14〕.

○おなじ箇所:
・操作方法 (例:周波数入力の前/後でのENTキー操作...八重洲のクセ)
・蛍光表示のディスプレイ (八重洲のデザイン)
・AQSのメッセージプロセッサ (ダブルCPU)
・改造後の周波数範囲 (おそらくコントロールユニット≒CPUの内部プログラムが一緒)

○回路図の「AQS端子」に「CAT」(八重洲の用語)の表示

アイコムのやる気のなさ共同開発の活用のうまさ・世渡りのうまさが際立ちます.

純血のIC-27と並売だったこと,同IC-28の登場などもあったのでしょう,1年半の短命に終わりました.アイコムとしてのAQS対応も,3社の中でもっとも早く終わりました(1987年4~5月まで,もう1機種のIC-2600については後述).QRO版はIC-26Dで,25Wでした.

〈IC-27→IC-26→IC-28の不思議〉
アイコムからIC-27に続いて発売になったのが、このIC-26です。どうして、IC-27となったのに、型番がもどってIC-26なのか疑問でしたが、いきなりのIC-28の登場でわかったような気がします。どうも最初からIC-26を売る気がなかったのではないかということです。その証拠に、IC-26が出て、ほんの数か月しかたっていないというのに、IC-28の登場でしょう。価格が安くなって、しかもモービル機では最多の21チャンネルメモリーで5,000円も安ければIC-26ユーザーは怒りますよ。
〔改造マニュアル PART 4 p.10〕

表示器『MP-1』も,見た目,八重洲『FMP-1』のOEM受けでしょう.

後発機

FT-3800,3900

モノバンド機の登場です(FT-3800(144MHz),3900(430MHz)).QRO版はFT-3800H 45W,FT-3900H 25Wでした.

IC-2600

アイコムからもデュアルバンド対応機が発売になりました.CQ誌の新製品ユーザー・レポート曰く,“ベールをかぶったリグ”――

従来ですと,本誌上などに新製品として紹介発表が行われ,その後,市場に出回るというケースでしたが,このIC-2600などについては,ただ一部の販売店などでうわさになっていたことは,マニア(販売店によく通うなじみのハム)の間であまりにも有名でした.
〔JN1BWZ,CQ誌1984年4月号p.210〕

また,FT-3700と「基本構成が全く一緒」との評もありました〔改造マニュアル PART 4 p.4〕.QRO版はIC-2600Dで,25Wでした.

C6000

430/1200MHzのモービル機です.確認するとこちらも「AQS対応」ということになっていますので,採録します.QRO版のサフィックスは「S」でした(430MHz 25W,1200MHz 10W).

:以下で二つあるうちの下の図(写真),および,
  取説(https://www.yaesu.com/jp/manuals/marantz_m/c6000_c6000s.pdf)

...しかし,1200MHzでの空きチャンネルサーチは仕様化されていないように思えますが?取説でも,言及はありません.


FT-736

AQSのみならずDCLを含め,最後の対応機種です(1987年11月号~).また息が長く,1998年まで販売され続けました.本機の販売終了を持って,DCLおよびAQSへの対応製品はハムショップから姿を消しました.

AQS用オプション

FMP-1

八重洲のものです.表示領域としては14字×3行ありますが,伝送できるのは14字/ 回です.
(表示されている『RADIO VAN』については本節末尾で掘り下げます.)

MP-1

アイコム版です.これはもう一目瞭然でOEMでしょう(八重洲→アイコム).

CDS5000,6000

スタンダードのものは,見た目からも自製でしょう.のちにカタカナ・レピーター対応で,『CDS6000』に切り替わりました.筐体のデザインはそのままです.

ところでC5000用のAQSコントローラは自社開発なのでしょう。価格は少し高くなりますが八重洲無線やアイコムのAQSメッセージプロセッサよりも使いやすそうで、ローカルにAQS対応局が多ければC5000用に購入しても損ではないでしょう。
〔改造マニュアル PART 4 p.20〕

RADIO VAN

AQSはその後,“ニューメディア”化が図られていくことになりました.

パソコンとAQS対応トランシーバを繋ぎ,(あくまで)AQSのインタフェースに載せて,「14字×最大1000ブロック」のメッセージを送れるようになりました.名付けてCAT-AQSパソコン通信システム『RADIO VAN』です. 対応機種はFT-3700,3800,3900の3機種です.

FIF-232C

構成は「[PC]―4800bps―[FIF-232C]―4800bps―[AQSトランシーバー]―1200bps―→対向先」で,インターフェイース『FIF-232C』14,500円を用いました(ケーブル『E-232C』は4,000円).写真中央が『FIF-232C』です.

RADIO VAN ver 3.1

ややこしい話になります.おなじ『RADIO VAN』の中でも,
・Ver 2台まで
・Ver 3台
は,システムが違います.下表にまとめます.

後者では,AX.25で通信するようになりました.従来の“over AQS”――14字×最大1000ブロック――の制約が解かれました(引き続き制御信号はAQSで送受可).

 RADIO VANRADIO VAN ver 3.1
システム名CAT-AQSデータ通信システムAQS-TNCデータ通信システム
通信方式AQS RADIO VANAQS RADIO VAN
AX.25
リグの使用端子AQS-CAT端子AQS-CAT端子
MIC端子
インターフェース装置FIF-232CFIF-232C VAN
TNC不要必要
初出1986年7月号
1986年11月号 漢字対応版
1987年5月号 近日発売
バージョンアップ版2.3版3.2版

FIF-232C VAN

AQS-TNC用の新しいインターフェースです.TNCは別途必要です(八重洲からは販売されておらず).


おまけ『HRC-7』

「あまりに時代の最先端を行過ぎていたため、...政治力の領域だと思うのですが…。」というケンウッド評もありましたが,時代が下って10年以上たったころにも悲劇に見舞われます.この広告が載ったのは1996年12月号だけ(CQ誌).


TM-942,842,742を親機とした,ワイヤレスリモコン的な使い方が提唱されていました.アマチュアバンドを使います...って,それって今でも揉めている“自局内通信”ですね.広告では“技術基準適合証明申請中”となっていますが,んなリグに技適が下りることはありませんでした.発売もされませんでした.ただ,技適番号で「025」――おそらく「KV025×××××」――が(JARD史上唯一の)欠番になっているのが,HRC-7の痕跡でしょう.

後日談:のちに,やんちゃな機能を外して,別商品『TH-7』( KV034×××××)として発売されました.


参考:CQ誌各号,RL誌各号.


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Aug. 10, 2020, Ryota "Roy" Motobayashi, JJ1WTL