無線機の輸出規制
当時，『輸出貿易管理令』において通商産業大臣の書面による承認を受けなければならない。とされていたものの中に，「960MHzを超える送信機」がありました．
該当項が全改正されたときの政令から抜粋します〔S56政令278〕：
ただしのち，事案の発生までに以下の変動がありました：
・項番 ………… 「一二九」から「一○七」に 〔S62政令373〕
・対象地域 …… 「甲地域」から「全地域」に 〔S60政令7〕
遡ってまとめると無線機の輸出規制の変遷は下表のようなもので，すでにS52(1977)年から「960MHz」という線引きがありました．
| 改正 | 項番 | 内容 | 地域 |
|---|---|---|---|
| S33政令255 | 一二九 | 無線送信機及びその部分品 | 甲地域 |
| S44政令261 | ↓ | 無線送信機であつて、周波数が二三五メガヘルツをこえるもの、パルス変調方式のもの、選択できる周波数の数より少ない数の水晶振動子を有するもの並びに五五度をこえる温度及び零下四〇度より低い温度で使用することができるもの並びにこれらの部分品 | ↓ |
| S52政令3 | ↓ | 無線送信機であつて、九六〇メガヘルツを超える周波数で使用することができるように設計したもの、パルス変調方式のもの並びに五五度を超える温度及び零下四〇度より低い温度で使用することができるもの並びにこれらの部分品 | ↓ |
| S56政令278 | ↓ | 無線送信機であつて、次のいずれかに該当するもの並びにその部分品及び附属品
イ 九六〇メガヘルツを超える周波数で使用することができるように設計したもの ロ パルス変調方式のもの ハ 六〇度を超える温度及び零下四〇度より低い温度で使用することができるもの ニ 周波数拡散変調方式のものであつて、送信バンド幅が情報チャネルのバンド幅の一〇〇倍以上で、周波数が五〇キロヘルツを超える信号を送信することができるもの | ↓ |
| S60政令7 | ↓ | ↓ | 全地域 |
| S62政令373 | 一○七 | ↓ | ↓ |
| ： ： | |||
| 【参考： いま】
ニ 無線送信機又は無線受信機であって、次のいずれかに該当するもの （一） 二五六値を超える直交振幅変調技術を用いたもの （二） 三一・八ギガヘルツを超える周波数で使用することができるもの（国際電気通信連合が無線通信用に割り当てた周波数帯域（無線測位用に割り当てた周波数帯域を除く。）で使用するように設計したものを除く。） （三） 一・五メガヘルツ以上八七・五メガヘルツ以下の周波数範囲で使用することができるものであって、適応型の干渉信号抑圧技術を用いたもののうち、干渉信号を一五デシベルを超えて抑圧することができるように設計したもの 出典： 『輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令』の，「第二十一条」の「２」項の「ニ」から（「外為令別表の九の項（二）の経済産業省令で定める技術」）． 〔H3通産省令49，改正織り込みH24経産省令56まで〕 H3(1991)年に，「政令」から，「省令での規定」に“落とされ”ました． | |||
【参考】 甲地域
“甲地域”については，輸出貿易管理令の「別表第一」の「備考」で列記されていました．しかし上述のとおり，「960MHzを超える送信機」については，告発前の1985年の時点において，対象が“全地域”に拡大されていました〔S60政令7〕：
別表第一（三五から三七まで及び四一の項を除く。）下欄中「甲地域」を「全地域」に改める。ですから，このリストとは無関係になっていました．
参考までに，1989年当時の“甲地域”は，以下となります：
一 「甲地域」とは、アフガニスタン、アルバニア、アルジェリア、アンゴラ、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、ビルマ、カンボディア、カナダ、キューバ、サイプラス、チェッコスロヴァキア、デンマーク、エジプト、エチオピア、フィンランド、台湾、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、インド、インドネシア、アイルランド、イタリア、ジャマイカ、ケニア、朝鮮(大韓民国政府の支配する地域を除く。)、ラオス、ルクセンブルク、マレイシア、マルタ、モンゴル、モロッコ、モザンビーク、ネパール、オランダ、ナイジェリア、ノールウェー、中華人民共和国、ポーランド、ポルトガル(マカオ及びポルトガル領チモールを含む。)、ルーマニア、シンガポール、南アフリカ共和国、南イエメン、スペイン、スリ・ランカ、スウェーデン、スイス、タンザニア、トリニダッド・トバゴ、トルコ、ソヴィエト連邦、連合王国(アンティグァ、ベリセ、バーミュダ、ブルネイ、フォークランド諸島、ジブラルタル、香港、モンセラト、セント・ヘレナ、セント・キッツ及びヴァージン諸島を含む。)、アメリカ合衆国、ヴィエトナム、ユーゴスラヴィア、ザイール及びザンビアをいう。
少額特例
ところで，“少額特例”と呼ばれる，「通商産業大臣（いまは経済産業大臣）の書面による承認」を必要としなくて済む制度があります．これも，該当項が全改正されたときの政令から抜粋します〔S62政令373〕．
中段の「三」というところが，「第四条第一項第三号」です．ここにご注目下さい．
また参照先となっている，『別表第三』『別表第四』も並記します．
ここで，「三」（「第四条第一項第三号」）の
別表第四に掲げる貨物以外の貨物に照らしつつ“別表”の中身を辿ってみますと，以下のことが読み取れます：
であつて総価額が百万円
（別表第三に掲げる地域以外の地域
を仕向地とする貨物にあつては、五万円）
以下のものを輸出しようとするとき。
・FT-736M … 別表第四に掲げる貨物以外の貨物
＝さほど危険ではない貨物
・台湾 ……… 別表第三に掲げる地域以外の地域
＝友好国だったら100万円を超えるときにだけ承認が必要だけど，
そうでない国だったら5万円を超えたら要承認よ
...ですから，
「FT-736Mが5万円以下であったなら，輸出許可はいらなかった
（なにも悪いことはしていません）」
ということになります．
結果として，ここが争点になりました．
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